「玩具の価値は」




―――、いつの日からか、あの人は屋上に来なくなった。
今までだって時々あったその行為は、ボクを困らせる為だけに行われていたけれど、
次第に、来なくなる時間の方が増えていき、明らかにお兄ちゃんの中でボクへの興味が薄れていっているのが分かった。

それでもあの人が姿を見せると、しょぼくれたボクの顔が一瞬だけ輝くように笑顔になってしまうのをあの人は見逃さない。
いつだって最悪のタイミングで屋上に訪れては、ボクの心をぐちゃぐちゃにしてしまうのだ。


――あれから、どれくらい日が経ったんだろう。
一ヶ月かもしれない。二ヶ月かもしれない。もう半年だったような気もする。
暑さも寒さもうまく感じられないこの身は、数えていなければ日付も分からなくなっていく。
今は、何の季節だろう。
………。

…今更ながら、この狭い世界に残されたのはボクだけだと理解してしまった。

ひとの無くした記憶まで呼び覚ましておいて、自分はさっさと逝ってしまうなんて、まるで玩具に飽きた子供みたい。
「…オモチャは、ボクか」
或いは、とっくに。
大切な家族との記憶を取り戻した今のボクは、お兄ちゃんにとって、もう…玩具の価値すら無かった。
きっとそういう事、なんだろう。




そうして今日も、明日も、その先も。
屋上の扉は固く閉ざされたままになっている。