「えっ、あ……」  頭を撫でられた。 こんな風に撫でられるのは、初めてじゃあない。嫌じゃあ、ない。 くすぐったくて、それを止めさせようと思うほどの事でもなくて。 それどころか…何というか、この人の撫で方は、優しいのだ。 「綺麗な髪だ」 さらり、と感触を楽しむようにその人は何度もあたしの髪に触れる。 「このような行為は、失礼に当たるだろうと思っていたのだけど。 特に貴女…遼子さん、私に触れられるのは構わなかったのかな?」 「ぁ…… い、いえ、その…大丈夫、です」 漆黒の瞳に― 真っ直ぐにじっと見つめられて、 何だか体温が1〜2度上がったんじゃないかって錯覚に襲われる。 「そ、それに…あたし、あ、貴方に撫でられると何だか― 」 胸の奥がほわほわする。頭を撫でられる度に。 「どうしてか、…おちついて…っ」 しどろもどろに言うあたしの頭に、ぽん、と手が置かれた。 「それは―― よかった」 そう言ってその人は、あたしの髪を一梳きする。 …なんだか眠くなってしまいそう。 「あなたの手、何だか、魔法の手みたい… 触れられると、何だかどきどきする…の」 ぽつりと呟くと、その人は瞳を一瞬だけ大きく見開いて、また優しく笑ってくれた。