「『手を伸ばすけど、触れられないね もどかしいよ、君の声』…」 「『君だけの言葉で愛を囁いて? そうしたら、きっと 君だけについて行けるから』…」 ――――。 彼女が詩を詠むのを、眺めるのはそう苦痛じゃなくて。 あの口から零れる恋愛の詩を、例えばあの子はどんな想いで詠んでるんだろう、とか 誰かに向けて詠むのだろうか、とか一瞬考えるけども もしそれが自分だったら、なんてちょっとだけ想像してみているうちに、 「………」 いつの間にこちらに気付いたのか、コヨーテが目の前に来ている。 言葉が止んだのはそのせいか。気付くの早…。 「いつも思うんだけどさっ、ツキ君、一体何しに…」 「聞いてるだけだよ、それより」 ――…彼女の顔が赤いのは。 「顔赤いけど、そんなに感情込めてたんだ?」 「…っ、・・・・・!」 ほんのりと赤いだけだった顔が、ゆでダコのように真っ赤になる。 …そんな姿を見たら、自然と手が出た。 ぐい、とやや強引に彼女の左手を引いて、歩き出す。 「きゃ、 えっ………?」 自分でも驚く位唐突だった行動に、驚かせたかな、と思ってちらりと振り返った。 俺に手を引かれ歩く彼女は、戸惑うように…けれど伏し目がちに、懸命に追いつこうと、 …だけど、掴まれた手を振り解こうとはせずに。 “さっき詠んでた詩、言ってみてよ。俺に” そう、言おうとして――口から出たのは違う言葉だった。 「いいから、黙って付いてきてよ」 「な、な、な  なんで…? というか、どこへ?」 勢いだけだったが、この際もうそれは何処かに投げ捨ててしまおうか。 「とりあえず、攫う」 「・・・・・・・・はぁっ!?」 もう訳が判らない! おわっとけ!