「…どうしよう…」 掛け時計を見上げて、亜里奈は、今日何度目か判らないため息をつく。 時計の針は午前一時を指している… 「春貴、にぃ……せんせぇ………ぐすっ」 二人とも何処で何をしているのか。ちくちくと胸が痛んだ。 「あんなこと…、言わなければよかった、なぁ…」 数時間前の事だ―。 「春貴兄のばかばかばか!すかぽんたん!!」 「亜里奈こそもうちょっと気を付けろ、この、バカ!」 「気を付けてるもん!春貴兄こそもうちょっと気を付けてよねっ!先生もいるのに!!」 「それはお前も同じことだろうが…!大体な――!!」 兄妹喧嘩。 些細なことから、少々責任の重い、家庭問題に発展しそうな物まで様々だが その殆どが、大抵は亜里奈か春貴のどちらかが謝れば終わる、些細なものであり 今回もそういう些細な事が原因であったはずなのだ。 その兄が、家を飛び出していって、数時間。…戻らない。 家に、帰ってこない。 “きっと意地を張ってるんだよ。きみが妹だから” そう言って、兄を捜しに行った先生も…一向に戻らない。 (確か、喧嘩したの…夕方だったっけ……) もう六時間は経っている― 一体何処へ行ってしまったというのか。 飛び出していった兄はどこへ行ってしまったのか。 それを捜しに行った先生も、実はもしかしたら心底自分に呆れて、出てしまったのではないかと。 急に亜里奈は不安になった。 「もしも戻ってこなかったら、どうしよう……」 春貴の携帯にかけた時、携帯は彼の机に置かれたままであった。 仮に先生が春貴を捜しに行ったのであれば、捜索も困難であろう。 「…戻って、くるかな…」 すっかり冷えてしまった夕飯を見やってから、またため息をつく。  ―ぽろり。 「はるき…にぃ…」  ―ぽろぽろ。 「せんせぇ……」 気付けば、涙が止まらなかった。 「帰って…きてよぉ…」 酷い事を言った。怒った兄が出て行った。先生も出て行った。皆帰ってこない。 ・・・ひとり、ぼっちだ。 「――…亜里奈を! 一人に、しないでっ!」 思わず泣き叫ぶ。 “…ごめん” 今にも消え入りそうな、微かな声がした気がして―ハッとする。 慌てて玄関のの方を見ると、そこには…春貴を背負って、こちらを見つめている人影があった。 「・・・先生」 “ただいま、亜里奈 …遅くなって、ごめんね” 【お題 4.泣く(泣かせる)】