短編テキスト「聖夜」 『──────チリン』 人でごった返す繁華街。その中を、私は歩いていく。 特に、目的なんて、あるわけじゃないのだけれど。 待ち合わせと似たようなモノだと思ってもらって構わない。 だけど、その待ち合わせは、人を待つようなものでもなくて。 『──────チリン』 『──────シャラン...シャラン...』 ただ聴こえてくる、この、今にも消え入りそうな音だけを頼りに、 私は歩いていく。 『──────シャラ・・』 音が消える。 「待って!」 気がつくと、叫んでいる。 「置いていかないで! 迎えに来てくれたんでしょう? 私を探しているんでしょう? そして見つけてくれたんでしょう?」 こんな回りくどく誘導をしてくれるのは、 私が帰る姿を、その世界を夢見る彼らに見られてしまわない様に。 ───音が消えていく。 街のざわめきが私の耳に戻ってくる。 まだ、時間はあるはずなのに、どうして。 ───はらり 何か冷たいモノが頬に触れる。 「雪だ」 空を見上げると、雪がしんしんと降り始めたようだった。 気がつくと、大人達は急ぎ足で傍を通り過ぎ。 周りを駆ける子供達は、降り出した雪に大はしゃぎし始める。 「───あぁ、そういうことですか。」 雪が降り出す時、それは、 私達サンタクロースが、プレゼント配達に空に繰り出す時間だ。 「うん───時間切れ。今年も私のお仕事はおあずけかぁ」 空から落ちたサンタクロースは、次の年に主人の元へ戻ってくる、 配達袋を乗せたソリを探さないといけないのだ。 ───静かに。ゆっくりと、落ちてくる、白の結晶。 手のひらに落ちてきたそれに、私はキスをした。 「・・・メリークリスマス──世界中の子供達に、夢が届きますように」