触れたくなった…ただそれだけなんだ。 散歩中、どこか悲しそうに語る遼子の顔を見て 不意に頭を撫でてやりたい衝動にかられた。 嗚呼、だけど。 初めて触れたときのように、また拒まれてしまったらどうする? そんな事を考えていると、いつの間にか早足になってしまっていたらしい。 くい、と服の裾を摘まれた。慌てて遼子に視線をやる。 「もー…もう少し、ゆっくり…歩こうよぅ、…お散歩、なんだから」 自分から触れたことに彼女は気付かない。 …やや縋るような上目遣いに、白い息。 気付くと、自然に手が髪に触れていた―。 よく歩いている割には手入れの行き届いた銀髪の、さらさらとした感触を楽しんでいると 遼子がくすぐったそうな声をあげる。 「ふぁ……ん、…〜んぅ」 そのまま髪を梳いてやりながら…もう片方を腰に回してみる。 「― ひゃんっ」 びくりと遼子の肩が跳ねる。僅かに見えた頬が赤くなっている気がした。 …時間にして夕方。 このまま、誰もこの道を通らなかったら――? 【お題 1.触れる】