「風邪なら・・・うつせば治るんじゃないか?」
そんな私の一言が、全ての元凶。
───バカじゃないから
───何故こんなことに?
思考を取り戻したエルンストが最初に思ったのは、そんなことだった。
自分は弟のベットに、仰向けに倒れている・・らしい。
仰向けに倒れた自分の上に、弟。
ハァハァと、多少苦しそうに息をしている。
やや赤く頬が染まっているように見えるのは、
どうも先日から風邪をひいていたかららしい。
その日の夕食の時の事だった。
いつもは、2杯ほど飯のおかわりをするハズなのに、
「今日はそんなにいらない」とか言い出したから。
挙句に。食事の最中に、ご飯に顔突っ込んでぶっ倒れる、なんて真似をしてくれたから。
慌てて駆け寄って、抱き起こしたら──身体が熱い。
「お前という奴は・・・ 何でもっと早く言わないんだ」と、ため息をついた。
冷めきったご飯の、粒を取りながら私はガッシュを自室へと運んだ。
ガッシュの息はやや荒く、熱っぽい。
何となく心臓の鼓動が早くなるのを抑えながら、ベットへ寝かしつけると、
タオル等の道具を取りに行くために、部屋を出た。
──が、戻ってくると、ベットが空になっている。
慌てて探し回ると、どうやら自分自身の部屋に戻ろうとしたらしく、
自室前で倒れているのを発見した。
「馬鹿かおまえは!そんな状態で歩き回るな───」
怒鳴りながら駆け寄る。と、それをガッシュが手で制した。
「・・・・頼む、か・・・ら」
「・・・!!」
「怒鳴ら・・・ないでくれ・・・・頭に、響くぜ」
「・・・すまなかった」
そんなやりとりの後、ガッシュが強くお願いするので
仕方なく、本人の自室で看病することにした。
私としては、仕事をしながらでも自室で様子を見てあげたかったのに───。
肩を支えにして、ベットまで連れて行く。さっきよりも身体が熱いようだ。
(早く寝かせてあげないと。早く安心させてあげないと・・・)
なんとかベットの上に寝かせると、先に用意した水で冷やしたタオルを額に乗せてやる。
と、その前に、と、熱の具合を確かめる為に、
手をかざそうとしたところでガッシュの声がかかった。
「確かめる、までも・・・ない。熱いのはわかるだろ・・?
頼むから、もう、ほっといて・・・くれないか」
最後の方は強い口調だった。
だけれど、このまま放っとくわけにもいかないから。
「・・・しばらく寝ていろ。あとで、また様子を見にくるから」
ベットの側を離れる。そそくさと部屋を出ると、なんだかどうしようもない空しさが心に広がる。
(何を───やっているんだろうな、私は)
胸のうちでそう呟く。
ばしゃーん、と、水が盆から落ちる音がした。
ガッシュの部屋の中だ。
私はとっさに部屋の扉を開けて中へ飛び込んだ。
「どうした!」
目に飛び込んできた光景に───脱力した。
「全く・・・ お前は何をやっている!寝たのではなかったのか!」
盆に顔を突っ込んで、ベットから落ちたらしい。
頭に盆を被って、びしょ濡れで倒れているの弟の姿に、私も流石に情けない・・・と思いながら。
「寝間着を変えてやるから、そこに座れ」
指示しながら脱がせると、次に新しい寝間着を──・・・
「濡れたままでは意味がないか。」
しかし、渇いたタオルは、さっきガッシュがひっくり返した大量の水のせいで
全て濡れてしまった。
暫く考えて、私は───
「タオルがもうないから、これで我慢してくれ・・ すまん」
自分は濡れていないから、こういうのもアリだろう、と、そのままガッシュを抱きしめる。
やはり熱い。このまま、自分の身体で、冷やさない程度に拭えればいいだろうと思った。
「あに・・きっ?」
突然の抱擁に戸惑ったガッシュだったが───やがて、落ち着きを取り戻していく。
(弟が、こんな酷い状態になるまで気づかなかったなんて・・・兄、失格だな)
そんなことを思いながら・・・ふと、何の気なしに、呟いてしまった。
「風邪なら・・・うつせば治るんじゃないか?」
──なんて。
───こんな事態、予想していなかったのだけど。
どさ、と押し倒された。
「っ?!」
そのまま、熱が覆いかぶさる。
「兄貴ぃ・・・」
熱でおかしくなったのか・・・、仰向けに倒れた私にガッシュは。
───服が引っ張られて、ボタンがいくつか飛んだ。
あぁ、折角新しい服だったのに、なんて思いながら。
「あにき・・は・・バカじゃ・・・ない、から、風邪、うつるよな・・・きっと」
───ボタンがなくなったそこが脱がされ、はだけさせられる。
・・素肌が素肌に触れる。弟も大きくなったんだな、等と考える余裕なんてない。
「こら、やめろ・・ お前は寝ていなきゃ・・・・」
頭の中が真っ白だ。いつもの私じゃない。
「だったら、兄貴も一緒に寝てくれよ・・・・」
熱で浮かされている。そんな、潤んだ様な目で訴えられたら私は─・・・
───答えるしか、ないじゃないか、と心の中で思った。
「なんでもしてやるから──、寝るぞ」
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