些細な嘘

どうしても、そうしたかった

 

───おやすみなさい

 


───ぱちぱち、ぱちぱち
暖炉の火が燃えるのを見ながら、ロッキングチェアーの上でエルンストは本を読んでいた。
時折、炎が勢い良く燃え上がろうとするのをみたりもするが、
決して、それ以上いくこともなく、やがて元の通り静かになる。

「・・・退屈だ」

なんとなく、そんな言葉が口から出る。
退屈だから、本を読んでいる。だけど、それももうすぐ読み終えてしまう、
それほど暇でしょうがなかったのだ。・・・暇というには、少々寛ぎすぎだけど。

再び、本に視線を戻す。冷たい文字を目で追ううちに、瞼が重くなって───



何分経っただろうか。


ばさ、と。
手にしていた本が落ちた音で、目が覚めた。


「ん・・・寝ていたか」
上半身を起こすと、後ろで何かがズレ落ちたような音がした。
なんだろう、と、手を伸ばすと───それはうすい毛布だった。
「・・・!」
肩にかけられていたそれの意味を、少しだけ考えて。

「───全く───、起こしてくれれば、よかったのに。」
ふふ、とエルンストは小さく微笑みながら呟く。



「兄貴の寝てる姿が間抜けだったからな」
「・・・なんだ、居たのか」
ふいに後ろから放たれた声に、彼は動じることなく答えた。

「本が枕代わりになってたぜ?」
そう言いながら、現れた人物───ガッシュは、床に落ちた本を拾い上げるとほら、と手渡した。

「ありがとう── ・・・私ももう寝るよ」
言って、暖炉の炎を消す。静かな炎はすぐに消えた。
「それじゃあ、おやすみ」
そう告げてエルンストが、自室に戻ろうとした時だった。

唐突だった。


「・・・・・・・・あ───
ためらいがちに、ガッシュが口を開く。
「兄貴、お・・俺の部屋で、寝ないか?」

「・・・・? なんだ、どうした」
暗がりでエルンストが顔を覗き込もうとすると、それを手で制して。
「今夜は・・・その、寒いだろ?
きっと・・、兄貴の部屋も、冷えてるんじゃないかと、思ってだな・・・・・・」
指の間から見える弟の顔が、妙に赤らんでいるのは、
きっと気のせいじゃないんだろうなぁ・・・、と思いながら。

二人は仲良く、ガッシュの自室に、むかう。




───ふぁさ、と、羽毛布団の端を持ち上げて、その暖かい中へと滑り込む。

「なんだガッシュ・・・───、おまえ、私より良い物使ってるのではないか?」
「き、気のせいだきっと───。」
他愛もない言葉を交わしながら、二人は、同じベットで、眠る。

「小さい頃のこと、覚えているか?」
「ん・・・あぁ。覚えてる──・・・、よく、こうやって寝たな」



「ふ・・・ おまえは、不安になると手を握りたがったんだよな───こんな風に。」

ガッシュの右手に、エルンストの左手が触れ───指が絡んだ。

「暖かいな・・・兄貴の手。それに、俺よりも大きい」
「こら。何を子供みたいな事を言ってるんだ・・・・私達はもう、大人だろう?
それと、」


いいながら私は、反対の方へ寝返りをうつと。
「───全く。添い寝なんて、久しぶりだな。・・お前に嘘は、似合わない」

「・・・バレたか」
子供の頃のように、いたずらっぽく答えた彼に、私は振り返り、微笑んでから。
「おまえが一緒に眠りたかっただけだろう?
 ───兄弟なんだから。わかっているよ。」


さぁ、
おやすみなさい 良い夢を─────────

 

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