散歩するのが苦痛になった。 大好きだった空の色も、今はもう見えない。 「遼子…」 あたしを呼ぶお母様の声すら、上の空に聞こえる気がする。 よく一緒に散歩していた友達が亡くなった。 急に路地に入ってきたトラックが、あたし達の方に発進してきたのを 彼は、あたしを庇おうとして――― そして、あたしの目も見えなくなった。 もう何も意味が無い。 なんであたし、生きてるんだろう……? 空を見上げても、どこを見ても、まっくらで ――あのひと… 彼もいない 胸の奥が痛む。 …瞳を閉じたら、涙が溢れた。 何も見えない暗闇の、それでも涙で見えない何かの向こうに 元気なあのひとの姿が見えた気がした。 …――そうだった。 今ここで「キミの隣にいきたい」、なんて願ったら きっと、…ううん、怒られちゃうね。 ただ、悲しかったんだ。 もう― 散歩をしていても、キミから声を掛けて貰えなくなることが。 キミと笑いながら歩けないのが。 キミと、たわいない話をしながら歩けないのが… 「…全部、楽しかったんだ…っ」 声が嗚咽に変わる。 病室の外にまで泣いているのを悟られたくなくて、 そのまま枕に顔を押しつけて泣いた。 そして気付いた。 今はもう…伝えられない言葉。 「……っ、く   …あた、し…  すき、だった…  」