雲の無い空だった。 …そんな日は、遠くの物全てを見渡せるような気がして。 「うん、だから、今日も散歩」 だから今日は特別。 いつもは、人目に余り触れないその道から逸れ、大通りへ。 ここはいつも人が多くて、昼間の一番盛況な時なら軽くダルマになれる自信がある。 今は、ちょうど昼下がりで、その流れも落ち着いた頃、と言ったところだろうか。 八百屋さんやお肉屋さんもまだ開いていて、あたしを見ると軽く手を振ってくれたりするのだ。 まぁ、お母様がちょっとした人気者だから、あたしのことを知っている人が、そう少なくないだけであって、 あたし自身に人気があるわけでは無くて――― その時、一際強い風が吹いた。 「きゃっ……」 服の下の方がめくれ上がったのが見えて、あたしは慌てて右手でそれを押さえる。 下にはズボンを穿いているし、眼前には誰もいなかったから見られていないと思うけれど…! きょろきょろと左右を見渡したら、斜め右前の曲がり角から、黒猫がこちらを見てた。 「…人じゃないけれど、こういう瞬間って、何だかちょっと恥ずかしいよね」 何だか可笑しくなって、ふふ、と笑いながら手を下ろした。 あぁ、何だかここを通る気分じゃなくなっちゃったなぁ。 でも河川敷へ行きたいから、早く通り抜けてしまおうっと。 …もちろん、向こうへ行けばきっとまた風が強くなるだろうけれど。 だけど今日は、一緒に歩こうって約束したあの人がいるから―――。